『FAKE FLIGHT』インタビュー
ー『FAKE FLIGHT』の製作はどのようにスタートしたのでしょうか?
リズムボックスをバックにロックンロールやっている人の音源が聴きたいと思っていろいろ探してみたのですが全然いなくてじゃあ自分で作ろうと思ったのが始まりです。そこからロックンロールのピアノリフやギターソロをたくさん重ねて弾いてるうちに何曲かできてきました。それが始まりですね。
ー当時のシンムラ氏のモードだったんですね。
そうですね。ジョナサンリッチマンやアレックスチルトン、NRBQなどにすごいハマっていた時期で。当然ですが彼らの音楽を掘り下げていくとロックンロール以前の音楽に通じていきます。50年代以前のメロディはものすごくスウィートで胸が苦しくなりますね。ロマンスがあると言うか。それと同時に踊り出したくなる。これはほんと人間でよかったなと思う瞬間です。アルバムを作っているうちに「プラスチックのアイラブユー」や「でっちあげヘヴン」といったナンバーも出来てきました。
ー今作も様々な側面を持った作品に仕上がっていますね。
「時代を超えたアレンジ」をいろいろ組み合わせて面白い反応が出るまで待つ、その繰り返しの作業でした。分かりやすく言うとロックンロールのリフにシンセを重ねるとか、重低音が効いていてほしいところをあえてスカスカにするとか。いろいろ試しています。アコギで弾き語りしていた曲をエレポップにした「いつものデジャヴ」とかは満足いっています。
ー今回のアルバムは夏を感じさせるサウンドですよね。
実は今回のアルバムは2017年の冬に仕上がっていたんですが、サウンドが冬とはかけ離れていたので半年寝かせたんです。タイトルに「フェイク」という言葉が入った理由の一つですね。僕が感じる気持ち良いサウンドは日本の四季とズレているようですね。ちなみに夏は苦手です。
ー製作時気に入っていたレコードはありますか?
ジョナサンリッチマン、NRBQ、ベン・ヴォーン、ジョナ・ルイ、ピアノザウルス、バディ・ホリーにエルヴィス・プレスリー。JAH WOBBLEとかリー・ペリーなんかも。ナイジェリアのファンクとかもよく聴きました。あとドイツのニューウェーブなども好んで聴いていました。TRIOとかDAFとか、DER PLANとか。ATA TAKレーベルの音は大好きですね。ドイツの音楽は丁寧に整頓されているのに、ベルトコンベアーに乗せられてどこか知らない場所に連れて行かれる不気味な感じが好きです。
ーレゲエの影響も見られますね。
そうですね。室内亜熱帯旅行みたいなイメージです。夏っぽいですがあまり外には出ていない感じですよね(笑)「プラスチックのアイラブユー」や「ヒーリングミュージッククラブ」なんかは特にそうですね。あくまで屋内というか密室でやってる感じが出るように努めました。この辺りはポールマッカートニーの『WILD LIFE』とかイメージしていますね。
ー今回もカセットMTRで製作されたんですね。
前作『PLAYBOY』の録り方と一緒ですね。ただ使った機材がちょっと違います。前作よりもドラムが太い音で録れるようになりました。ベースにコンプレッサーかけたりとか、前にできなかったことを今回いろいろ挑戦してみました。
ー楽器はすべてシンムラ氏による演奏ですね。何かポイントなどありますか?
はい。今回はすべて自分で演奏しています。ポイントは「飽きる前に録る」ですかね。何回も弾いてたら飽きますし、パッションが失われるから良くないですね。あ、でも「でっちあげヘヴン」のギターだけは100回以上数をこなしました。
ーMIXも今回すべてシンムラ氏が手がけたのですね。
はい。前作より視野も広がりましたね。音作りは何ヘルツをあげるとかそういうイコライズのイメージは一旦放置しました。風船が破裂しそうで破裂しない状態の音とか、ねずみ花火の音とか、背中を汗が伝う感じとか、そういった現象、風景を音に変換するイメージで行いました。コンプレッサーを室内の空気音にかけたり、そんな発明もしました。不思議な異空間になりますよね。「でっちあげヘヴン」の空気感はそれが大きいですね。
ー録音方法について聞かせてください。
ドラムはマイク一本のみで、マイクはスタンドに立てず椅子の上に転がしておきます。この方法が今のところ一番自分にしっくりきています。ベースはギターアンプから出してマイクで録音しています。楽器の音を録ると言うより空気を録る、という感じですかね。
ー『FAKE FLIGHT』の歌詞については?
作っているうちに「愛」についての歌詞が増えましたね。「プラスチックのアイラブユー」はすぐに歌詞が付いて、これが今作の幹になった気がします。最初の話にも繋がりますがメロディがロマンチックになっていって、それに従って歌詞もこうなった。という感じが強いです。あまり歌詞で冒険しようというのは今回なかったですね。発音して気持ち良い音を探してメロディと一緒に発展させた、という感じです。「いつものデジャヴ」はピンポンという言葉がたくさん入っているのですが、人によってはチャイム音だったり卓球だったり、ピンポン録音(https://ja.wikipedia.org/wiki/ピンポン録音)のピンポンだったり。感想が様々で面白いですね。まさにこのいろんな反応が僕の中のピンポンです。
ー今回は『PLAYBOY』より、よりメロディアスな作品に仕上がっていますね。
単純に作曲方法が変わりました。基本的に散歩します。そのリズムがメロディになってくるまで歩きます。それが変化の原因じゃないでしょうか。メロディが散歩に耐えられるようになると自然とハーモニーも浮かびます。
ーシンプルなのにどこか不自然さもありますね。
「ハートのビートはエイトビート」はあえてアコーディオンで伴奏したり、「バーチャルライフ」ではドラム→ベース→ギターと入ってほしいアレンジなのにその逆の順で登場させたりしました。隣の芝生が青く見える状態と言うか、憧れている状況というのは何か恋をしているみたいでいいですね。普通にやらないことで、普通のすごさも分かるし。だからやってみることが大事だと思います。
ー最後に一言お願いします。
いろいろ言いましたが、前作から今に至るまでの、僕がキャッチした情報や感情をメロディにしたまでの作品です。何というか、目の前のものが失われていくのが分かります。それを音にした作品です。末長く楽しんでいただけたらと思います。